「なァ、宵風」
「え?」
「ん?」
パソコンと向き合っていた雪見さんが突如振り向いて「宵風」と呼んだ。それに返事をする声はなかったけれど、代わりに私が余計な反応をしてしまった。(お、おばか・・!)だって雪見さんが死神さんの方を向いて「宵風」って呼んだってことは死神さんは、宵風、なんだよね?(うっそーん!)

「どうかした・・・んですか?」
雪見さんがたどたどしく敬語を使う。私はなんとなく恥かしくなってあはははと笑って誤魔化しながら言った。
「あ、え!いや、そのですね、前の世界にいたときに宵風って名前のキャラクターの居る隠の王っていう漫画があったもんで!えへへ」
「え・・・」
「隠の王・・・?」
「あ、もしかしてこっちにもあったりするんですか、隠の王!あれ面白いですよね〜!」
2人がやたらと意味深な反応を返したので(かなり)びっくりしたけれどもここはなんとか落ち着いてとりあえず話を合わせてみたけれど、どうやら失敗に終わったらしく2人は更に意味深な顔になった。(こ わ い !)

「おいお前・・・どこの忍だ?」
「は、はい?しのび??」
突然雪見さんが真剣な顔になって私に質問をした。私は声色の変わった雪見さんにびっくりしてどもってしまったけど、それでも雪見さんの表情はぴくりとも動かない。それにさっきまではどうでもよさそうにしていた死神さん(もとい宵風さん)も疑うような目でこっちを見ている。

「わ、わたし忍とかじゃないですよ!」
「そんな見え透いた嘘はつくな。正直に言えばいい。何もしねえよ」
「嘘じゃないですよ!わわわたしふつうの中学2年生です!」
雪見さんは私の言葉を聞くと大きくため息を吐いた。う、うわ、なんかやだなそういうの。
「はァ・・・だから正直に言えっつってんだろ」
「もう!正直に言ってるじゃないですかあ!」
いい加減いやな気分になってきたので私はすこしおこりぎみでかえした。それでも雪見さんはまるで動揺しない。それどころか殺気らしきもの(わたしはいちども殺気というものをうけたことがないからよくわからない)を私に向けてきた。それはとてもぴりぴりと肌を刺すようなかんじがして雪見さんがほんとうに忍なのだということを実感した。でも、そうすると、

「ったく・・・埒が明かねェ。宵風、いくぞ」
「どこ」
「決まってんだろーが、本部だ本部。他の奴に頼んでこいつを吐かせる。こんなに粘ってるってことは何か情報持ってるかもしれねェからな」
「わかった。・・・ほらいこ」
宵風さんはわたしを見て声をかけてきた。雪見さんはもう既に準備万端でもたもたしているわたしを睨みつけている。(こ、こわい!)宵風さんは雪見さんに同乗するわけでもないけどどうやらわたしを信用してくれたわけでもないらしい。地獄に来たばっかりのときはそうでもなかったのに今では宵風さんがほんとうの死神に見えた。いきものはみな、みためではんだんしちゃいけないようだ。