今日は、生憎の雨で。
空を見上げてあたしはあー・・・、と声を漏らした。
傘は持っている。最近デパートで衝動買いした、結構お気に入りの。
荷物が多い訳でもない。
両手は塞がってないし、あるのは肩から提げている小さいバッグ。
でも、何ていうか・・・・。


―女の子の日、しかも1日目に、雨っていうのも、ねぇ・・・?
あたしは、女の子の日になるとお腹が痛くなって、だるくなって、眠くなる。
腹痛も十分辛いけれど、気持ち悪くなったり、頭痛のする人はもっと大変だなぁとか思う。
いつかの友達で、生理痛が凄く辛い子が居て、その子は酷い時には学校を休んでいた。
そんなになるものなのか、と思ってお見舞いに行ったら。
苦しそうにしていて、とても話せるような状態ではなくて。
疑問を持っていたあたしは、なるほど、と手のひらを返したように納得した。
「お腹、痛いなぁ・・・・」
こうやって独り言を言うのも結構辛い。
座りたいけれど、お腹を圧迫すると何ていうか苦しい痛みになるので座れない。
でも立っていると、腰辺りが痛くなって。

あまりにも眠いので、あたしは、いつもある意味苦労の元の宵風が居ない事を願って、歩き出した。










「――おかえり」
「よ、宵風・・・ただいま」
やっと着いた、とホッとしてドアを開けた時。

奴は、居た。

しかも、勝手にあたしのティーカップ使っているし。
此処に来るなら、自分の持ってきなさいよ、と言いたい。
「何でいんの?」
「いや、何となく。あまり来ないから」
あぁ、そうね。いつもアンタあたしの家に来ないもんね。
だからって、今日じゃなくていいじゃんか!せめて一週間後ぐらいに気が向けばよかったのに!
ため息をつく事すら辛くて、あたしは宵風を無視してベッドに入った。
ベッドの中は冷たくて、お腹の痛みが余計増した。
あぁしまった。湯たんぽを入れておくんだった。

何故に今更湯たんぽ?とかきかれそうだけど、あたしは伝統を大切にする人です。



あたしは、傍に宵風が居る事も忘れて酷くなった腹痛に堪えていた。
「ハァ・・・最悪。寒い・・・」
「・・・・どうしたの?」
「今日、あれなのー・・・」
喋る事も辛く、腹痛の所為で寒さで体を丸める事もできず、あたしはあったまれ、と念じていた。
宵風は、あたしのあれ発言で何なのか理解したらしい。
やる時はやるなぁ、宵風よ。
ていうか石の上にも三年、ていうけど、その三年って、どんだけ苦しいの!
今、此処は三年のうちのどのあたりだろう。二年三ヶ月くらいかも。
しかし、やっぱり最初からがベッド凄く冷えていたのと、窓を開けていたのと、あたしが外で体を冷やしてきてしまっていたっていう色んな理由の所為で、一向にベッドはほかほかしなかった。

あー・・・しょうがない。こうなったら、限りなく不本意で危険だけど。

「・・・・宵風」
「何?」
自分の名前を呼ばれて嬉しいのか知らないけど、宵風の声は少し明るかった。
ベッドの中から手をだして、チョイチョイと手招きする。
宵風はあたしの手をベッドを交互に見て、入ってもいいの?と聞いた。
「うん。寒いから。あっためて」
「・・・・わかった」
そう言って、ててて、とあたしのベッドに近寄ってシーツの中に入る。
あたしの思ったとおり、宵風はとっても暖かかった。


あったかい宵風を抱き枕にして、あたしはほっと安心する。
そして、宵風の顔を見て、むっとして宵風のキャスケットを奪った。
「あたしの家ん中ぐらい、キャスケット取んなさい」
「・・・・はい」
お、やけに大人しいな、とか思いながら、あたしはキャスケットをベッドの近くのテーブルにぽいっと放り投げてまた温かさの喜びを噛み締める事にした。
何ていうか、こういう温かい満足した環境だと、顔がニヤけてきて止まらない。

「・・・何ニヤけてるの、
「いや、何かもう温かいっていいなーって思って。宵風最高ー」
「僕ホッカイロじゃないんだけど」
「じゃぁ湯たんぽー」
「・・・・はぁ」
そんな会話も幸せで、生理痛なんて何処へやら、あたしは満足だった。
宵風のハイネックのセーターが頬に触れて、気持ちいい。


こんな体温が温かい方を湯たんぽにして、ニヤニヤできるなんて、あたしはなんて幸せ者。
そう思うと余計ニヤニヤしてきて、あたしは宵風のセーターに頬擦りした。
宵風はそれをじっと見つめる。
「・・・どうしたの、宵風」
「何か、そういうの誘っているようにしか見えなくて」
「・・・・・は?」
「我慢できなくなったらゴメン。でもそれの所為だから。」
「え!?何それ!?ちょ、マジでやめて!今日あたし何の日だか知ってるでしょ!」
「うん。でも大丈夫だよ」
「何を根拠に言ってんのさ!」
何だこの万年盛ってる犬は。
そのうちあたしの体が毎日危険に晒されるわね。
勿論今もだけど。

「・・・・、ゴメン。もう無理だ」
「え?え、ちょっ、ダメ!ダメダメダメ!!ギャー!やめろ万年発情犬!!」




・・・・今度から宵風を湯たんぽにするのはやめよう。絶対に。














一世一代の、女の子の日。






宵風は動物に例えるなら、犬希望。