とりあえず、鼻じゃなくて口で呼吸をした。
鼻で息をすうと痛いから。
息が白く染まった。

ゆき

「雪、好きなの?」
 そばに立っていた少女に気がついて、気が付かなかった事に驚いた。
「うん、けっこうね」
 僕はそう言った。
「帽子、雪よけ?」
 彼女は聞いた。
雪のような白い肌、桃色の唇に、黒い髪をした一般的な日本人だった。
ただ、その肌は血が本当に通っているのかと聞きたくなるほどに白く、脆かった。

「そう、宵風って言うんだ」
 彼女は名前を聞くと、少しうれしそうに笑った。
「わたしは、って言うの。――またね?」
 もう一度逢える確信があるかのように、どこか虚無的な笑みを浮かべて彼女は去った。

― ―

「こんにちは。……また逢ったね?」
 昨日と同じ、雪のような白い肌をした少女はきた。
これは確信犯だろう、と僕は思った。

「雪ってさ、かわいそうだと思わない?」
 例の虚無的な笑みを浮かべて、彼女は言った。
「何で、そう思った?」
 ふっ、と含み笑いをして、こちらを見ていった。
「空から旅して降りてきたのに、人に潰されてしまうから。
 ―― 一人一人命があるって事も知らずに、さ。
みんな――ころされちゃうの。人に。」

― ―

「宵風ェ、次の仕事いくぞ」

「――え?」

 唐突に相棒の声が聞こえる。

夢から覚めたような感覚だった。
何で?

「……は、何処?」

、って誰だよ。ベンチで隣の方向いてぼーっとしてるしさ、何やってんだ?」

 最初から、いなかった?

なんで。

とりあえず立ち上がろうとしたとき、

くしゃり、と音がして、いつの間にか置いてあった、小さな雪だるまが壊れた。

あの女の子の桃色の唇。そういえば少女の白い息を見ていない。

ただ、横で話し掛けてくる相棒の声を無視して、僕はしばらく、その小さな命の亡骸を見つめていた。


+  +  +  +  +  +  +
初登場だったりするともです。
雪って切ないなぁ、と唐突に思って。
雪国の死亡事故のニュースを見て思い立った物。