叩きつけた。

人生初の経験、ってやつだ。

決闘って何かをかけてやるモンなんでしょ?

決闘状

――ツー、ツー、ツー………

 周りでは戦闘が起きているのに、電話の切れた独特の音が、妙に大きく響いた。

なんだ、は来てくれないのか。

友達じゃなかったのか。

――ツー、ツー、ツー……

「…………?」

 ――見放された。

雷鳴はそう思って、携帯の通話状態を、切った。
まるで自分の不快感を切るかのように。

その瞬間。

―― ヴン、

 空間が切れるような不可解な音に驚いて、その方向を見た。

「ごめん、途中で携帯壊された……。あの糞爺め」

 どこか平坦なその声と、芝居じみたその動作のギャップに笑えた。

だから、笑いすぎて涙が少し出てしまっただけ。

何でが此処にいるのかなんて考えもせずに――

ただ、その質問はすぐに解かれた。

「――!」

 老人の低く、威厳のある声が響く。

灰狼衆の忍達の動きが、ぴたりと止まった。

「……じーさん、あんたもしつこいね」

 本当にうざったそうに、はあくまでもひょうひょうと、その場の空気を乱して言う。

そのままが櫟にむかって戦闘態勢で構える。

「森羅万象を護ってどうする」

 しん、と静寂が広まった。

灰狼衆の忍は面白そうにあざけ笑っている。

――しまった、しくじったな。

は考えた。

まさかここで言うとは思ってもみなかった。

厳格でプライドの高い櫟のことだから、挑発に乗ってくると思ったんだが。

全員が、まさか、と言う表情で、目線で理由を求めてくる。

あぁ、居心地悪い。

にやり、と櫟が笑った。

目は笑っていなかった。

― ―

「私は、一族を抜ける。……覚悟は、とうにできている」

 今度驚愕したのは櫟だった。

一族の主戦力のの実力は、党首の櫟でもはかりきれていなかったのだから。

「もう、あんたの言いなりにはならないよ? じーさん。
……私は、自由だ」

 そう言って、櫟とよく似せた、しかしどこか芝居じみた笑みでは笑った。

やはり目は笑っていなかった。

― ―

 一族を抜ける、と言うことは、帰る場所を無くすということだ。

それぐらい知っている。

何故なら、それは現在の党首を殺すか気絶させるかさせなければならないから。

もう、戻れないのは確定してるから。

― ―

「……お前も偉くなったものだな、

 結局わしには、敵わないだろうに……」

 目の前の老人から感じる怒りと殺気。

――本気なんだ。

今更ながら、思った。

また、老人は笑っていた。

今度は目も、笑っていた。

― ―

叩きつけた。

人生初の経験、ってやつだ。

決闘って何かをかけてやるモンなんでしょ?

じゃぁ 私は命。あんたは命と一族の名誉と地位。

これでどうよ?

――さぁ。

決闘開始。