ある、夜空の下の一角で。
夜色に染まった川のそばにある草原で、二人が座っていた。
「ねー宵風ェ」
「何、」
「あ、やっぱ何でもないや」
「………」
好きな人に名前を呼ばれるとけっこうどきどきするものなんだってこと、最近初めて知った。
雪見いわく僕は鈍感らしいから恋とか愛とかそういうものには疎い、らしい。
星空の下、誰からの邪魔もされず二人。
そんな今までにない状況に僕は多少なりとも緊張している、のはにわからないだろう。
「もしも流れ星がながれたら、は何を願う?」
そう呟くと、僕は草の上に寝転がった。
青臭い草独特の匂いと、さらさらした葉の感触が手に纏わりつく。
「んー……はやく萬天とかとの戦いが終わりますように、かなぁ」
「へぇ。やっぱり勝ってほしいもの?」
「いや、正直早く終わって犠牲者が減ればそれでいいよ」
もう誰かが死ぬのは嫌だからね、とは悲しそうに笑った。
何で、こんな優しい女の子が血生臭い隠の世にいるんだろう。
こんな人は表の世で学生として普通に生活して、幸せに過ごすはずなのに。
「……首領にきかれたらまずいんじゃないの」
「はは、まぁね。……だから秘密」
僕は少し笑った。大丈夫、絶対に言わないという意味をこめて。
宵風だからもらさないと思って言ったんだよ、とは僕に言ったから少し嬉しかった。
「宵風は? なにがいいの」
「僕は、……そうだな、雪見に部屋の掃除をもっとしてほしいね」
「………」
は僕の答えをきいて黙ってしまった。
冗談は通じてくれないらしい、と僕は思う。
しかたないかな、も本音を言ったみたいだし。
「僕は、……自分が、このまま消えてくれればラクなのに、って思う」
は、驚いたように僕を見た。
そうしてすぐに、悲しそうな、哀れむような顔になった。
「宵風がいなくなったら、悲しむ人、たくさんいるよ?」
だから消えないでよ、とは続けた。
僕はの目を見て話す。
「そう? ……確かに、今消えると皆迷惑だろうしね」
ふぅ、と僕は息をついた。
の表情は暗くてよく見えないけど、どうやら悲しそうな顔をしているようだ。
「宵風、……違う。迷惑じゃなくて」
「………?」
「わたしが、困る、よ」
の表情は暗くてよく見えないけど、どうやら泣きそうな顔をしているようだ。
「……本当に消えるわけじゃないよ……」
僕は、必死に、熱く赤くなる顔を隠した。
僕らはもう、流れ星のことを信じれるほど子供じゃないし、絶対に信じないといえるほど大人じゃない。
そんな中途半端で優柔不断だから、ありもしない蜃気楼に触れようとして傷つくんだ。
「そう、だよね。……ね、宵風」
「何、」
が軽く手で目をこすって、僕を見た。
そうして、いつもみたいに綺麗に笑う。
「私、流れ星に宵風が消えないようにお願いするね」
いつもみたいに笑って、いるんだろう。
それはの顔は僕の胸にもぐりこんでいるから、わからないけれど。
流れ星
(いつか君はどこかに行ってしまうのかもしれないけれど)
(一分一秒少しでも長く、傍にいて)