お兄ちゃんと私

あたしのお兄ちゃんはとてもかっこいい。妹であるあたしが見てもそう思うくらいなのだから、他の女から見ればもう神様みたいな存在だろう。そんな神様みたいな存在の妹をしているのだ、あたしは。へへん。

あたしのお兄ちゃんは、 宵風といって近くの市内の高校に1年生として通っている。成績は中の上、上のちょっと下ぐらいで、運動神経がいい。でも本人は運動よりも食べる事が好きで、今は家庭科部に入っている。(毎日料理を作っている)学校では食いしん坊キャラとして通っていて、みんなに可愛い可愛いとめちゃめちゃ愛でられている。(らしい)好きなものは筑前煮と夜の闇で、筑前煮だけは自分で作らないであたしに作らせる。(それをいつもおいしいおいしいと言って食べる)(嬉しい)その他はぜーんぶぜーんぶお兄ちゃんが作ってくれて、あたしは掃除とかお洗濯とか、そういうのをやるだけ。(すっごい楽ちん!)あたしは料理がお兄ちゃんと正反対で大の苦手なので(筑前煮以外は!)、お兄ちゃんが料理上手なのはあたしにとってとても助かることなのだ。うん。

そんなお兄ちゃんには、たくさんのファンが居る。なんてったって何でもできてしかも媚びたりしないし、意外なとこで優しかったりするから、普通の女の子ならメロメロになってしまうのだ。中にはお兄ちゃんのかっこよさと可愛さに負けてファンになる子も居るけど、大半はお兄ちゃんの優しさに惚れちゃった人ばっかり。それはあたしにとって大変おもしろくない。でもあたしがちゃんと我慢できたのは、お兄ちゃんはいつもあたしにとても優しくしてくれるのだ。いつの日にか、何でか聞いてみたら、「は僕の特別だから」と言った。(は、恥かちい!)それが嬉しくて、あたしはいつもお兄ちゃんに甘える。お兄ちゃんは嫌がるどころか大歓迎してくれるので、あたしはもう幸せなのだ。

お兄ちゃんと毎日じゃれるあたしだけど、お兄ちゃんの他にすごく甘えたい人がいる。それは雪見 和彦といって、彼はいわばお兄ちゃんとあたしの保護者役だ。あたし達は親が仕事で海外に出張してるため、2人暮らしだ。あたし達はどうしても日本に居たいと駄々をこねて、中学生になってようやく2人暮らしを許してもらえた。その為に昔からお世話になっている雪見さんに両親が保護者役を頼んでみたところ、雪見さんは二つ返事でオーケーしてくれたのだ。それで心残りは無いのか、いつまでたってもラブラブな年の差カップルの両親は海外で夫婦よろしくイチャイチャやっている。(な、なんか今更だけど恥かしいな・・・)

雪見さんは保護者役といっても、家に泊まりこんであたし達のしつけをするわけでもなく、時々合鍵を使ってうちに遊びにきたりする程度だ。それで最近あったことを聞いたりして簡単にメモってじゃれて帰る。両親が放任主義なのもあって教育はほとんど本やテレビから覚えたようなあたし達は学習能力がとても高い。なので今更教育しても反抗期の子供を逆なでするだけだ、という事で両親ともども好き放題させてくれるのだ。(わーい!)その代わり半年置きにテストなどの成績表を送って、著しく学力が落ちていないかをチェックさせられる。でも、成績表を送るだけならあたしはこの自由な暮らしを選ばないわけにはいかなかった。幸いうちは結構裕福な家庭なのでそこそこ遊べるお金はあるし、家計も順調だ。

仕事で忙しい雪見さんが来るとあたし達はぱぁ、と明るくなる。何だかんだいってお兄ちゃんも実は雪見さんに凄く懐いていて、あたしが雪見さんと過剰なスキンシップをしない限りは絶対雪見さんが居る間機嫌が損ねない。更に雪見さんの入れてくれるレモネードがあたし達は大好きで、冬にはあったかいレモネードの入ったマグを持ってこたつの中でほんわかしてるのだ。あたしはこういう時間が大好きで、自然とあたしは冬が好きになるようになった。



というわけで、あたしは今日も楽しく学校生活を送ります!今日は中学2年になる初めての日、いわゆる始業式で、お兄ちゃんは今年から高校に入学する。お兄ちゃんはあたしの中学校の隣りの高校に入っているので、登下校は一緒に行こうと春休み間に決めた。

今は朝ごはんをお兄ちゃんが準備していて、あたしが洋服を干しているところだ。マンションのベランダから見える都会の風景を目に入れながら、あたしは自分達の洗濯物を時間に遅れないように急いで干していた。

「ん?どうしたのお兄ちゃん」
「ご飯できた。・・・それ、手伝うよ」
「ありがとう」
ご飯ができたと呼びに来たお兄ちゃんはあたしの傍にある洗濯籠の中を見て、手伝うと言ってくれた。それにあたしはありがとうと返すと、お兄ちゃんはふわりと笑った。やっぱりきれいだよね!

お兄ちゃんの綺麗さにあたしはにこにこ笑っていると、お兄ちゃんがあたしに近寄ってきて、あたしをぎゅっと抱きしめた。こういうのは毎日やってるから慣れてるけど、突然やられたのであたしはびっくりしてびくっと肩を震わせた。お兄ちゃんがあたしを抱く力が少し強くなった。どうしたんだろうと思っていると、お兄ちゃんの口から紡がれた言葉は実に普通のものだった。
「これから学校違くなっちゃうね」
「お兄ちゃん寂しいの?」
「当たり前でしょ。と一緒に居られないんだから」
「何言ってんのさー!お隣同士じゃん」
「だけど休み時間会いに行けないでしょ」
「毎朝登下校するじゃん」
「それはずっとしてた」
「むむっ、それはそうですけどね・・・」

そういいながら眉を寄せて身をよじると、やっとお兄ちゃんは抱きしめている手を離してくれた。自分から離したくせに物足りなさそうに見ているお兄ちゃんに、今日の甘えんぼさんはあたしじゃなくてお兄ちゃんだね、と笑った。
「うん、そう。今日は僕が甘えるほう。だから、おはようのチューして」
「えぇ!?何で!そんなのしたことなかったじゃん!」
「いいでしょ、減るもんじゃないし」
そう言って逃げようとするあたしの腕を捕まえて、わざとらしくちゅ、とか音をたててあたしの唇にキスをした。(ななな、なんでよりによってあたしの唇に・・・!)ハグは慣れてるけどキスは慣れてないあたしは、顔を真っ赤にさせてお兄ちゃんに「もう何すんの!」と怒った。お兄ちゃんは少し悲しい顔をしてるけど、まるで焦りというものがない。

「ごめんね、。だって今日からおはようとおかえりとおやすみのキスはするようにっての家訓に追加されたんだ」
「家訓って・・!聞いてないよ!」
「言ってないもん」
悪びれた様子もなく、平然と言うお兄ちゃんにあたしはがっくりとなった。昔からこういうところで俺様っぽいところがあるよなあ・・・と某テニス漫画に出てくる氷の帝国の部長を思い出してはぁ、とため息をついた。あんなに俺様でジャイアニズムじゃないだけいいかも、とも思った。


ため息をついて項垂れると足元に洗濯籠が映った。あ、と思い出すのは今は朝の時間。慌しいはずの朝をあたし達は何カップルよろしくキスなんてしていたんだ全くもう。
「お兄ちゃん!洋服干してご飯食べなきゃ!」
慌てて一番上にあるパーカーをとってあたしはハンガーにかけて干す。いまだに不満そうなお兄ちゃんは「しょうがないなあ」とか「放課後覚悟しててね」とかぶつぶつ言いながらのろのろと下着を干した。もう何でこんなまったりできるのこの人は!と焦るあたしに対し、お兄ちゃんは根強いマイペースぶりで洋服を干している。兄妹なのになんでこんなに違うんだろうとあたしは急いで洋服を干しながらしみじみ思った。

遺伝子ってすごいなあ。