「ねえ、そこ」
「はい?」
「・・・・おばさん、いいって」
すこし不機嫌そうな六条くんにお構いなしで今度こそ清水さんがはっちゃけた。はっちゃけてしまった。(こころなしか相澤くんも嬉しそうだ)(なんでだ)状況のうつりかわりがものすごい早くていまだにぼんやりとしているわたしをも無視して清水さんは思い切りわたしに抱きついてきた。わたしはそれを支えられなくて思い切り床にあたまをぶつけた。(いたい)
「いや、なんでアンタらが喜んでんの」
六条くんの冷静なツッコミにより、はっと我に返った一同は今度こそ頭と体の機能が動き始めた。そして相澤くんは冷静な顔で考え込んでいる。清水さんは相変わらずにこにこ笑ってたけど、さっきほどはっちゃけてはいないようだった。六条くんは相変わらず不機嫌そうにあぐらをかいている。
「・・・あの、家見つかったはいいけどさ」
「ん?」
少しまじめな顔で相澤くんが切り出した。清水さんはよくわかんない長い棒を大事そうに抱えながら返事をする。
「学校、行けないといろいろ大変だよね?」
「あっ・・・・」
ぱちん、と自分のほっぺたを叩いた清水さんと、「あっ、じゃないと思うよあっ、じゃ」とまた冷静にツッコんだ六条くんと、その様子を見て苦笑した相澤くんと、みんなそれぞれ反応した。わたしも言われて気づいて、学校行くにはどうすればいいんだろうとか、戸籍とかいるんだっけなとか、そもそも戸籍ってなんだっけなとか、いろんなことを頭の中でぐるぐる考えてみた。
確かに学校に行けないとたいへんだ。勉強がもともとダメなわたしがさらにダメになるし、地獄のわりに結構リアルに隠の王をパロってるこの世界ではたぶん就職とか、結婚とか、それこそ普通にできるんだろう。今じゃ、わたしがトラックにひかれて死んでしまって、地獄へやってきたなんて実感がまったくない。というかこんなリアルなパロディ世界を何時間も体験すれば誰だってそうなるだろうとわたしは思った。
そういうわけでわたしはこの地獄で『生きていく』ために勉強しなくちゃいけないし、そこそこいいお仕事につかなくちゃいけない。まるでわたしが生きていたときの世界みたいだと、わたしはこっそり心の中でわらった。
「うーんでも学校行くって簡単に言っても大変だよ?戸籍登録とか、そもそも出生登録してないから怪しまれちゃうと思うんだけど・・・・」
「・・・は?相澤!い、今おまえ何語しゃべった!?」
「清水は黙ってて」
「はい・・・」
相澤くんに一蹴されてしゅんとなってしまった清水さんの背中をさすっていると、唐突に六条くんが「あ。」と言ってぽん、と手を打った。
「ど、どうしたの?六条くん」
「あのさ・・・こういう時はやっぱり顧問の先生に頼むべきだとおもうんだよね」
「・・・あ」
六条くんが言うと、相澤くんが思い出したように声を上げ、それからにやりと笑った。
「そうだよね。・・・顧問の先生に、頼むべきだね」
そう言った相澤くんの背後に不穏なものが見えたような気がしなくもない、・・・。
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