それから私はひっくりかえったちゃぶ台をなおして和室を出て行った。ここはとても広いけどそんなに複雑なつくりじゃなかったから、私は迷わずに玄関に行くことができた。私は出そうになる涙を必死にこらえて、ゆっくりガラガラ、と扉をしめた。(そうじゃなきゃ、いまにも大声でなきだしそうだったからだ)

ここの大きなお屋敷にくるまではどきどきばっかしてて道は全然おぼえてなかったけど、私はそれでよかったと思った。もし私が道をおぼえてたら、未練をのこしながら雪見さんに謝ろうとかやめようとか、ずっと考え続けちゃうだろうからだ。どこだかもわからずにずっとずっといっぱい歩いて、もしかしたら雪見さんのおうちに行っちゃうかもしれないなんて怖くなって私はお財布に入っているお金で電車に乗って遠くまで行った。冷静に考えればすごくばかなことをしてるけど、そうでもしなきゃ私は頭がおかしくなってしまいそうだった。涙をこらえすぎて、リラックスがわかんなくなった。

気づけばとても遠いところで、私は少しほっとした。ここは地獄だからもうこれ以上肉体的なくるしみとか、なくなっている気がした。――げんに、私は何時間もたった今でもお腹はまったくすいてないのだ。時折見かけるコンビニに並ぶ食べ物の広告をみても食欲がそそられるわけでもないし、かといって元気が有り余って体を動かしたいほど元気というわけでもなかった。ほんとうに、これいじょうこんな状態を続けたら、私は頭がすごくおかしいひとになってしまいそうだ。


ぽつ、ぽつ、と冷たい何かが肩にあたった。見てみるとそこには小さな丸い染みが2つついていて、ああ雨か、と私はぼんやりとおもった。それを合図のように、雨がぽつぽつからざあざあに変わり、乾いていた私のセーラー服はあっという間に湿って重い服になった。そんなふうに雨をシャワーみたいに浴びながら、辿り付いたのはどこかの公園だった。噴水はあるけど水はでていなかった。周りの池のようなところにたくさんの波紋が広がる。私はそれを見て、何故か無償に堪えていたなみだを一気に開放してしまいたいきぶんになった。すると私の目からはこの雨と同じくらい大粒の水が溢れ出てきた。嗚咽が漏れることはなかったけど、私はとてもたくさんのなみだをながした。

まるでこの雨は、頭がおかしくなりそうな私を助けてくれるような感じがして、ここは地獄だというのに、くるしむべき場所なのに、すごく優しい雨がいることを知った私はまたたくさん、涙をながした。