「へえ、それじゃあお兄ちゃんがその女の子連れてきたんだー」
「うっせェよ和穂。てめェ誤解招く言い方すんな」
灰狼衆本部、入ると出てきたのは雪見さんの妹らしい和穂さんが迎えに来た。(迎えた、じゃまちがってるけど)そして雪見さんが真剣にわたしがどれだけ怪しいかを和穂さんに話したのだが、和穂さんは雪見さんの話を聞いても別段わたしに対する態度をかえることはしなかった。というかむしろ雪見さんの意見とはまったく逆の意見らしく、さっきから雪見さんの話を聞いてはにやにやしている。そして雪見さんも雪見さんで真剣に話を聞いてくれない和穂さんにいい加減怒りを覚えたようだ。
「和穂ォ、おまえ真剣に聞いてるのかァ?」
「うん聞いてる聞いてるー。でもねえ、それお兄ちゃんの考えすぎな気がすごいするんだけど」
「考えすぎなんかじゃねェ。忍として当たり前の思考だ」
「だってこんな華奢で可愛い子が忍なわけないじゃなーい」
「バカヤロー!あれほど見た目で判断するなって首領から言われてんだろォが!」
ドン、と机をたたいて雪見さんが怒鳴った。それにわたしだけがびくりと肩を震わせる。和穂さんはまるで動じないし宵風さんなんかはかなりどうでもいいのか手元の湯のみで遊んでいてまるで話を聞いていない。
「むぅ・・・それはそうだけどさあ。あたしはこの子だけは違うとおもうよ」
「根拠はあんのかよ」
「ないけど!女の勘」
「ハン!それじゃああてになんねェな」
「うざいしお兄ちゃん!」
にやにやしていた和穂さんも次第に表情がけわしくなってきて、結局和穂さんも雪見さんに突っかかるような感じになっていった。しかも少しずつわたしの話題とはそれてこの前貸した100円返したとか家に来たとき歯磨き粉パクっただろとかふつうの口げんかになってしまった。わたしはそれにほっとしたようなさみしいようなで、ぼんやりと言い合う2人をみていた。宵風さんはもうじぶんだけの世界にはいってしまっている。
「おや?何をしているんだい?」
10分ほどたったころ、さっと襖があけられてびしっとスーツで決めたおじさんが入ってきた。(なかなかしぶくてかっこいいおじさんだ)そのおじさんの声で雪見さんと和穂さんの口げんかがぴたりと止み、湯のみで遊んでいた宵風さんがゆっくり顔を上げた。おじさんはそれににこりと微笑んで
「随分と、声が響いていたようだが」
とそのことばだけでちびっちゃいそうなちょっと怖い声をだした。(で、でも笑顔・・・)私は突然あらわれてすっごい怖いオーラをだしたしぶくてかっこいいおじさんをぽかん、とたぶんすごいダサくてきもい顔でみていると、おじさんがわたしに気づいて、「おや?新入り君かい?」と言ってきた。それに対して私は思わず「え?あ、はい!よろしくおねがいしまーす!」と笑顔でいっちゃったもんで、おじさんも笑顔で「そうかそうか、頑張りたまえよ」と言って行ってしまわれた。(うおおおいちょっどうするんだよわたし!!)
ぱたん、と襖がしまるとその場はしーんとしずまりかえった。(き、きまずっ!!)私はとりあえず一番視線がいたいであろう雪見さんからの視線は一切気にしないようにして、とりあえず一番視線が少ないであろう和穂さんに「あははー」と笑ってみた。
「あははーって!まじうけるよこの子!かわいー!ってかさ、ほらねお兄ちゃん!やっぱ女の勘あたったでしょ?この子は新入りで、あたし達をびっくりさせるために演技した、ってわけよー!ほらっあたしってば天才ー!!」
和穂さんはあははっと大声で笑ってそれから「でしょ?」となぜか私にふってきたので私は思わず
「そ、そうなんですよー!実はわたし将来表の世で女優目指してるんですよねー!それでちょっと遊び心で・・・ごめんなさい☆」
とかなんとかふざけたことをゆってしまった。(なななんでこんな時に限ってめちゃめちゃいい言い訳おもいつくのわたし!)(自分でもびっくりだよ!)
おそるおそる雪見さんと宵風さんを見てみると、宵風さんはあいかわらずどうでもよさげ無反応で、雪見さんは、というと何やらさっきより怒りが増したらしく(ひいい)おもいっきり私にガンを飛ばしながら「ああそうかよ!」と言い捨てた。(こ、こえええ)
「なになにーお兄ちゃん拗ねちゃってる系ー?ダッサー」
「(ぎゃあああ和穂さんあなたはなんてことを!!)」
「拗ねてねえよ!!ああそーでした俺の考えが間違ってましたすいませんでした!!だったらてめぇらはてめぇらで勝手にやってろクソが!それがいつか後悔することになっても俺は知らねえからな!!行くぞ、宵風!!」
「(ひいいいい)」
雪見さんは私が座っていた近くのちゃぶ台を思い切り蹴るとどんどんと足音を鳴らしながら和室を出て行ってしまった。宵風さんはひっくりかえったちゃぶ台と少しシリアスな顔になってる和穂さんとびびってる私をそれぞれ見て、何も言わずに行ってしまった。
「す、すいま、せん・・・」
消え入りそうな声で、でもこの静かな和室では十分きこえる声で私は謝った。だけど、和穂さんは少しシリアスな顔をしたままで、返事をしてくれなかった。そのうちゆっくり立ち上がると挨拶もちゃぶ台を直す事もしないで和室を出て行った。取り残された私は寂しさとか後悔とか信じられない思いとか、とにかくたくさんのきもちが混ざり合って、次第に目の前を霞ませていった。
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