死神さんに連れられてやってきたのはごくごく普通のアパートだった。てっきりこてこてのぐろぐろな扉が現れるんだとばかり思っていた私はちょっと(いやかなり)びっくりしたけど考え直してみればこの死神さんにはこてこてのぐろぐろよりもこんな普通のアパートの扉の方がずっとしっくりくると思った。それにここは地獄というよりふつうの東京の街って感じがすごいするからいきなりこてこてのぐろぐろは逆に浮きすぎて嫌だと思った。まあとにかく、私はふつうな扉に入れるということなのだ。(これで地獄ライフもまあまあいける!)

「・・・・(何してるんだろう)」
「あ、すいません死神さん!」
階段のところで考え事していたのでどうやら立ち止まっていたらしく、死神さんが親切にも振り返って待っててくれた。私は慌てて階段を上り死神さんに追いつく。死神さんは何も喋らなかった。(なんてミステリアス・・・!)死神さんのミステリアスさにちょっぴりときめきながら私は死神さんの斜め後ろに立った。
アパートの表札には「雪見」の文字がある。あ、もしかしてこれってゆきみって読むのかな。そしたら隠の王のゆきみさんと同じ名前だ、うわあ嬉しい。その人と地獄ライフを送るのかあ嬉しいなあと思いながら死神さんがぴんぽーんと庶民的にチャイムを押すのを見ていた。(意外に死神さんは庶民派なのかな?)

それから数秒後、どんどんと歩くような足音が聞こえてアパートの扉が開けられた。でてきたのは若いお兄さん。(わあこの人がゆきみさんかあ!)(なんか隠の王のゆきみさんと雰囲気似てるなあ)お兄さんは死神さんを見て「なんだァ何処行ってやがったんだクソガキ」と言った。(うわあすごい大胆だ雪見さん!)
死神さんはそれに対して怒るわけでもなく「ちょっと拾った」と言って私の制服の襟をぐいと引っ張った。(わ、く、首がくるしい)すると雪見さんは目をまんまるに見開いてぱちぱちと何回か瞬きして目をごしごしとこすってまたぱちぱちと瞬きした。さっきの私みたいだ。

雪見さんは私と死神さんを見比べて恐る恐る口を開いた。
「あ、え、と?どちら様で・・・?」
「あ、はい!これからこちらでお世話になります、 ともうします!えーと・・・あ!トラックに轢かれてきやってきました」
「「は?」」
何故か死神さんと雪見さんが自己紹介ではなくそう、英語でいうなら「パーデュン?」的な返事を返してきた。あれ、私何か変なこと言ったのかなあ。地獄の人たちは自分が死んだ理由とか言わない、とか?(うわあどうしよう恥かしい!)
「え、えーとつかぬことをお聞きしますが、そのお・・・トラックに?」
「(あ!乗ってくれた!)あ、そうなんです!いえね、中間テストというか自分のおこづかいのゆくえの心配して横断歩道渡ったらトラックがすぐ傍に来たの気づかなくて」
「(ええ何言ってるんだこの子それ死んじゃうじゃねェか)そ、そうなんですか・・・それで、それから?」
「ええまあ気づいたらこっち来てたんですよねえ〜即死だったんですね、きっと」
「(何ふつうに即死とか言ってんだ!てことはこいつ幽霊か?あ、でも足あるし宵風に首掴まれてるし・・・)」
「あのー私何か変なこと言いましたか?」
「い、いえ何も・・・(え、さっきの変なことじゃねェの!?)」

雪見さんがずっと変な顔で固まっているので私はちょっと不思議に思った。だけどその前に死神さんに掴まれた首をちょっと離していただきたいかもしれない。(く、くるしい!)ここは地獄なのに痛みとか苦しさを感じてしまうのですね。あ、もしかして地獄だから、なのかな。
「あーえと、死神さん、くびくるしいです」
「あ、うん」
死神さんはぱっと手をはなした。すると私は重力に従って下に落ちた。盛大にしりもちをついたのでちょっと恥かしい。それにセーラー服が汚れてしまった。どうしよう。

「ねえ、入んないの?」
「あ!そうですね。入りましょう」
「あ、ああ・・・どうぞ」
雪見さんは相変わらず変な顔で固まったまま引きつった顔で中に入れてくれた。雪見さんの変な顔がずっと微妙なきぶんだったけど、死神さんはどうでもよさげな顔をしていたので私もどうでもよくなってきた。部屋に入って私が床に座ると雪見さんは震えながらレモネードの入ったマグカップを差し出してきた。それをおずおずと受けとって雪見さんを見ると雪見さんはぱっと顔をそらしてさっさとパソコンの前に向かってしまった。死神さんはまたどうでもよさげに窓の外を見つめている。