暗い意識が少しずつ浮いていくような感じがした。目の前が黒から明るい白になっていって、とてもまぶしく感じた。それから自然と瞼が上に持ち上げられて、白がほんとうに太陽の光みたいに真っ白でまぶしくなった。そのまぶしさにうっとりする前に私の目に景色がうつった。
「こ、ここはどこでしょう」
ぱちぱちと目を瞬いて目をこすってもう一度瞬いてみる。景色は変わらない。この景色が本物であることを確認してから私はついさっきまでの記憶を掘り返してみた。

私はさっきトラックに轢かれそうになって、というより轢かれて(たぶん)死んじゃうかなんかしちゃったはずだ。だってあんな猛スピードのトラックが突っ込んできたのだから。物理はさっぱりわかんないけど、14年間の経験からして、あれに轢かれたら確実に死ぬ。と、おもう。(やっぱり物理はむずかしい)
でもそうすると私が今ここにいるのは天国?あ、でもこの前弟のプリン食べちゃって弟泣かせちゃったから地獄なのかなあ・・・それにしても随分と平和な感じのする地獄だけど。お約束の閻魔大王様はでてこないの?
キョロキョロとあたりを見回してここは地獄なのか確かめると同時に閻魔大王はいるかどうか(期待はせずに)探してみる。確か昔お母さんに聞いた話によると閻魔大王は地獄へやってきた人に扉を選ばせてその人の住処を決めるとか、なんとか・・・(よく覚えてないんだけど!)(あの時しっかり聞いとけばよかったのに!)
私は本気でパニックになりそうになって、慌てて自分のほっぺたをぎゅっとつねった。かなり痛かったけれど多分これで頭が冷静になったとおもう。こういう時はパニックにならないのが一番だって、小学校の先生が言ってたしね!
冷静に、冷静に、と自分の頭に言い聞かせながら私は周りを見渡した。するとベンチの方に黒尽くめの閻魔大王っぽそうな人が居たので私は慌てて閻魔大王(らしき人)のもとへ走っていった。


私が駆け寄ると閻魔大王(らしき人)が気づいたのか顔をこちらに向けた。ちょっと息を切らせる私を明らかに不審者を見るような警戒した目つきで見る。(ええそんな!閻魔大王様なのに)
「あ、あの・・・突然ですが貴方は閻魔大王様ですか?」
「(何言ってるんだろうこの子・・・)違うけど」
「ええ!じゃあ貴方は誰なんですか?(閻魔大王様じゃなかったのか!)」
「(誰って・・・)しにがみ、って呼ばれてるけど」
「(うわあ死神!)し、死神様ですか・・・」
「うん」
がっくりと肩を落とすと死神様はちくちくと刺すような視線で見るのはやめた。だけど私はそんなことよりも死神様と会話をしちゃったところがすごいなんかやばいような気がしてならない。(確か人の魂を持っていくとかいう、あれだよね?)
「・・・あのさ君、閻魔大王なんていないとおもうけど」
「(うええ!?)そそそそうなんですか!?ど、どうしましょうわたし地獄に落ちれない」
「地獄に落ちたいの?変わってるね」
「だ、だってそうじゃないと死んでも死に切れないというかなんというか・・・」
「ふーん」
死神様は興味なさげに呟いて視線を逸らした。私はこの後どうすればいいのかを必死で考えてみる。考えて考えて考えてみる。・・・あ。
「扉!」
「(またこの子は・・・)何?」
「扉ですよ扉!私そこへ入らなきゃいけないんです!死神さん、扉どこにあるかわかりますか?」
「(なんでいつの間にか死神さんになってるんだろう)扉って・・・」
困惑したように死神さんが言ったので私はちょっと焦った。多分、ほんとうは閻魔大王様が決めなくちゃいけないからなのかもしれない。(わあ死神さんが閻魔大王様の代わりに!)代理で頑張っている死神さんに迷惑をかけない為にも私はちょっと遠慮をして死神さんに扉を決めてもらうことにした。そうすれば死神さんは(たぶん)楽ちんだ。多分。
「ええと、知ってるとこならどこでもいいんです!扉に入れれば!」
「(扉って・・・玄関のこと?)どこでもいいなら勝手に決めるけど。そこにもう既に人いるけどいいの?」
「はい!ぜひ!」
「(変な子)じゃあ行こう」
そう言って死神さんはさっさと歩き出した。てっきり空とか飛ぶのかと思っていた私はちょっと拍子抜けしたけれど扉に連れて行ってくれるそうなので私は死神さんに感謝しているので何も言わずに追いかけた。死神さんの後姿はとっても細くて折れそうで、私はちょっぴり心配になった。