きぃきぃと小さな音を時々立てながら私の古い自転車が前へ進む。私はその長年愛用してきた自転車には跨らずに隣に立って押し進んでいる。そして私の隣には仲のいい友達。

学校の帰り道、いつも私はこうして友達と一緒に帰っていた。私が通うのは中学校だけども家が遠い私は特別に自転車通学を許可されている。そして私は朝だけ自転車を使って学校に来るのだ。
「それでね!その後宵風が・・・」
私の隣にいる友達は最近隠の王という漫画にハマったらしく、月刊誌を読んではその感想を私に聞かせてくれる。私はというと普段ならつまらないと聞かないのだけども、この友達は話術というかなんというか、そういうスキルがやたら高いらしく始めは興味の無かった私も今ではすっかり隠の王(について話してくれる友人の話)の虜になってしまった。しかもこの友達がしっかり抜け目なく話を聞かせてくれるおかげでキャラクターの声はわからずともそれぞれの性格や名前などはすっかり覚えてしまったのだ。だけどそんなものを覚えて今度の中間テストに役に立つかといえばそういうわけではなくぶっちゃけていいますと私は今隠の王どころじゃないことになっている。(だって、赤点とったらおこづかいなしなんだもん!)かといって今話をしてくれている友達の話が聞きたくないわけでもなく、私は自転車をゆっくり押していながらも中間テスト(というより私のおこづかいのゆくえ)の心配と友人の話が面白すぎるという楽しみという2つのことで頭の隅っこで小さく葛藤をしていた。でも、決着はつかない。

「・・・。あんたちょっと聞いてる?」
「う、うん聞いてるけど・・・」
「なんかすごい目が虚ろだったからあたしの話聞いてないのかとおもったよ」
「ごめんごめん。だって中間が・・・」
「こら!中間とか言っちゃいけません!あたしはわざと言わないようにしてたのに!」
「(それって現実逃避・・・)」
頭を抱えだした友達を見て、悩んでいるのは私だけじゃないらしいとちょっと嬉しくなった。だけどそれと同時に中間テスト(というより私のおこづかいのゆくえ)の心配がむっくりと膨れ上がって本気でやばいと私は思いなおし始めた。
「ね、ねえ・・・やっぱ私自転車乗って帰るね・・・」
「む!はおべんきょー仲間に入るのね!」
「そ、そうじゃないけど・・・おこづかい・・・」
「あーもう!わかってるわよ!あたしだって色々とやばいんだから!」

ばかばかばか!と友達は私に叫んでからそれじゃあバイバイ!とわけのわからない挨拶をして行ってしまった。私は、なんで私がバカなの、と言い返せずにぼんやりとその背中を見送っていた。

「・・・って!私も勉強しなきゃ!!」
中間、おこづかい、中間、おこづかい、と自分で自分に言い聞かせながら私は慌てて自転車に跨った。お母さんのおさがりで私が散々乱暴に扱ってきたこの自転車はぎし、と耳障りな悲鳴をあげる。私はそれすらも気にする事ができずに横断歩道へ向かって自転車を走らせた。今月のおこづかいを抜かれてしまったら、ほんとうに、やばい。

「あ、君!危ない!!」
え?事故?だれだそんなバカなことしてるやつ、とおもって振り返ってみると、私のすぐそこまでトラックが来ていて、そいつはパッパーとクラクションを鳴らした。一方私はすぐ傍に来ているトラックも特に怖いとは思わなくて、意外にも冷静な頭で、バカはわたしだったのか・・・、と妙に恥かしがっていた。
それから女の人とおもわれる悲鳴が聞こえて、私は目の前が真っ暗になった。