わかってた。あたしはちゃんとわかってた。
宵風がいっつも悲しそうな顔をしてることだって、あたしと顔をあわせるたびに顔をちらりと背けることだって。話しかけると少し嫌そうに目を逸らしてみじかく言葉を返すことも、すれ違うときは顔を俯いて目を合わせないようにしてることも。

わたってた。あたしはちゃんとわかってた。


宵風、って呼ぶと彼は返事をしない。
ぽんぽん、って肩を叩くと彼は迷惑そうにこちらを向いてくれる。
はい、ってレモネードの入ったマグを渡すと少し嬉しそうにして。
あたしはいつもそのちょっと嬉しそうな顔が好きだ。

もっと仲良くしたくて、もっと近づきたくて、
一緒に話そうと思って声をかけてもいつもあたしの一人語り。
そのくせに同じ班の雪見さんには懐いてて。

雪見さんが「宵風ー」って気だるそうに呼ぶと、
宵風は嫌な顔ひとつしないで雪見さんのとこへ行く。

あたしはそんな様子を見て、羨ましくて、悔しかった。



何であたしじゃないんだろう

何で雪見さんなんだろう

何で宵風はあたしを選んでくれなかったんだろう


ううん、そうじゃない。“何で”じゃない。
あたしはわかってた。わかってたんだよ。

あなたはあたしを選んではくれないし、
あなたはあたしを見ようともしない。
いつだってあなたは雪見さんにとられちゃうし、
あたしはひとりこのどうしようもない気持ちを手の平にのせている。



あたしは、わかってるんだ。ちゃんと、わかってるんだ。





だけど、さ。



やっぱし、悲しいよね
いつまでも振り向いてくれないあなたに対する苛立ちとか、
いつだってあなたをひとりじめする雪見さんに対する嫉妬とか、
そんな自分に何考えてるんだって叱ってる良心とか、
そのくせにあなたが好きでどうしようもないあたしとか、

うまくいかないことばっかで、悲しいよね


いつかあたしはあなたを諦めるよ
新しい素敵な人を探すよ
もしかして、あなたよりもっと愛してくれる人を探すよ

だからそれまでは、宵風のこと好きでどうしようもないあたしでいるね



わかってたよ。あたしはちゃんと、わかってたよ。

あなたがそうやって悲しく死んでいくことだって、

それに耐えられなくてあたしがばかみたいに後を追うことだって、

そんなこと、あなたは気づきもしないし気づこうともしないことだって、



わかってたよ。あたしは全部全部、ちゃんとわかってたの

















すべてを知る君へ
(だから、あたしはあきらめるの)