「わー!!雪だー!」
外は真っ白、あたしは真っ赤。
何てったって久々の雪なんだから!何でかこの地域、今年は雪が全然降らなかった。
去年も確かぼちぼち降って全然積もらなかったっていうオチだったような・・・

あたしは兎に角、雪が好きだ。雪が好きなくせにこんな雪が滅多に降らない地域に引っ越してきたのは、あたしの所為じゃない。
そういうツッコミはあたしのお父さんにしてよ!
雪大好きっ子なので、部屋は雪をイメージして白で統一。(いつ汚れるかビクビクの毎日よ!)
家具はできるだけ雪らしい冬系の物で、小物は雪だるまばっかり。
ノートとかも、白ばっかりかな。
あたしは汚れた雪ってあんまり好きじゃないからあまり汚さない。
それでもあたしの意思に反して汚れるのがオチだけど!



あたしは嬉しくて嬉しくて、早速準備して外へ出た。
いつもより少し目はキラキラして(自分でもわかるのよ!)、顔は嬉しさで少し熱かった。
あーもうホントテンション上がるね!雪って最高!
ぴょんぴょん飛び跳ねて積もっている雪の中を突き進む。
地面はそんなに積もっていなかったけれど、踏めばあの独特な音はした。


さくさくと進むうち、雪の下で突っ立ってる人物を見かける。
「あ!宵風!」
見れば降る雪を見上げてる、ちょっとサマになってる宵風が。
あたしが思わず声を出すと、宵風は気づいてこっちを見た。
あ、どどどどうしよう!目が合っちゃってるよ、あたし!
ちょっと不思議な感じのする宵風は、あたしの片恋の相手。
好きになった理由とかは覚えてないけど、気づいたら宵風にドキドキしてた。
これが恋する乙女ってやつかな?何かちょっと嬉しいかも。

そして宵風はあたしを一瞥してまた雪を見た。
宵風のトレードマークともいえる帽子に少し雪が積もってる。結構な時間ここにいたんだね。
(寒くないのかな?)(そりゃ寒いよね!)

雪を見上げる宵風は、何だか哀愁が漂ってて、それがカッコよくて、あたしはドキドキした。
(あーもう!この色男め!)
とりあえず、あたしは宵風に駆け寄る。宵風は駆け寄ったあたしに気づいて、こっちを見た。
うはーどうしよう、あたし今宵風の隣に立ってるよー・・・

宵風はあたしのそんな密かな喜びにも気づかず「どうしたの?」と声をかけた。
ドキドキする胸を頑張って抑え込んで、あたしは話しかける。あードキドキしすぎて死んじゃう!
「あ、あのさ、雪・・・降ったね」
「うん」
「よかったら、さ・・・雪だるま一緒に、つくろ?」
「いいよ」
きょとん、と返事をした宵風に思わずあたしは発狂しそうだったけど、頑張って抑えた。
可愛すぎるよにーちゃん!変なおじさんに食べられちゃうよ!
熱くなる頬には気づかないフリをして、あたしは宵風と作る部分を分担した。
ちなみにあたしが頭で宵風が胴体。
一応ビッグな雪だるまを考えてるんだけど・・・どうだろうなー。


あたしは早速、雪だるま作りを始めた。宵風も同じようにやってる。
これであたしはもう何の文句も無い・・と言いたいところなんだけど、生憎ひとつあった。
「つ、冷たーいー・・・!」

それは、手袋を忘れたこと。何でよりによって手袋なんていう大事なアイテムを忘れるのあたし!
入試で筆記用具を忘れる事と同じくらい致命的だよ、おばかめ!
ぶるぶると震えながら雪だるまの頭を転がす。(表現がちょっと残酷だ)
手は真っ赤で何度も一時停止しては、はーはーと息を吐いて温めた。
あーちょっと感覚無くなって来たかも・・・それはそれでいいんだけどサ。
感覚が無いって楽だね。ちょっと怖いけど。
それからもあたしはごろごろと雪だるまを転がしていく。うん、少し大きくなってきたみたい。
あー腰痛いなー。

あたしが腰を伸ばしているとふと、横に影ができた。見ると宵風が立っている。
思わずびっくりしたあたしはズザザザザ、と横に逃げた。
逃げるあたしの腕を、誰かが掴む。それは紛れも無く、宵風のもの。
「何で逃げんの」
「あ、いや・・あはは・・・・あそうだ!雪だるま下半分できたの?」
この返事はあまりにも不自然すぎる。
いくらなんでもこの話のそらし方は無いだろ、と自分で自分をツッコむ。
でもかといって宵風見て胸がドキドキしちゃって恥かしくて逃げた、なんて口が裂けても言えないんだけどね!


宵風は案の定眉をひそめて、訝しげにあたしを見る。(か、顔近い!近い!)
それからあたしの腕を握る力をちょっと強めた。そんな事したって逃げません!
(ていうか、逃げられません!)
「できた。だからのところにきた。そしたら逃げられた」
「ははは・・・詳しい状況説明をありがとう・・・」
淡々と経緯を話す宵風は、そっけない上に怖い。あーもう泣きたいです、とほほ・・・
穴があったらあたしは絶対そこん中入ってると思う。
宵風があたしの腕掴んでくれるのは凄くラッキーで嬉しいんだけど、今はこわいです。
目が笑ってない。いや、顔も笑ってないけど。
あーあ・・・あたし嫌われちゃったのかなぁ・・・

そう思って思わず首が垂れる。犬耳とかあったら絶対垂れ下がってるだろうなー
「・・・僕、別にを怒ってるわけじゃなくて」
「・・・え?」
「だから、怒ってるわけじゃない」
宵風の言葉を聞いてあたしは顔をばっと上げる。
「え、じゃぁどうして・・・」
「僕、あんまり我慢強くないんだ。好きな人に会えたのに一緒に遊べないって、悲しすぎるよ」
その言葉を聞いてあたしは一瞬頭の中が真っ白になる。
え?え?それってもしかして・・・期待しちゃっていいんだよね?いいんだよね??
「宵風、もしかして・・・」
「・・・・」
あたしが質問すると、宵風はぶすっとしたような顔になった。いや、可愛いけど。
次の瞬間、宵風のドアップがあって、なんていうか唇は温かくて柔らかくて・・・え?柔らかい?
次第に宵風の顔は遠ざかって、目の前には珍しく真っ赤な宵風が。
少しずつあたしの思考が正気を取り戻して、はっと我に返った時は顔がみるみる赤くなった。
「よ、宵風・・・」
、好きだよ」
ストレートに真っ赤な顔をさせて言う宵風に、あたしの頬もどこもオーバーヒート。
赤くなった頬を隠すようにあたしは顔を俯かせた。
苦し紛れに、「・・・う、うん・・・」と返事をする。どうやらちゃんと宵風に伝わったらしい。
そのまま宵風に引き寄せられて、気づいたら宵風の胸の中に居た。
すごくあったかい。体温って、こんなにあったかいんだ。
宵風の手があたしの背中に回される。ぎゅっ、と抱きしめられた。

少しびっくりしたけど、宵風の珍しい行動にあたしは顔がニヤけるだけだった。
そして、そろそろと宵風の背中に手を回す。宵風の背中はおっきくて、あったかかった。
今なら、絶対言える。あたしが言いたくて言いたくてしょうがなかった言葉。






「宵風、大好き!」

空からはしんしんと雪が降り始めて、あたしの熱くなった頬をちょっとだけ冷やした。
あたし達の傍にいる、未完成の雪だるまはまるで優しく微笑むかのようにそこに居た。















イッツアホワイトマジック!
(ああ神様、この幸せ者のあたしをどうか成敗してやって!)