宵風だけの秘密基地。(基地?)
そこにあたしはいる。
別に灰狼衆の仲間とかじゃなくて、ただのオトモダチ。
でも正直あたしはオトモダチ以上の想いがあるけれど。
勿論変なところで鈍い宵風はまるで気づいていない。
けどさ、それでもやっぱり恋する乙女ってもんは辛いのよ?
「はーぁー・・・・」
宵風の秘密基地でいつもあたしはまったり過ごしている。
そして必ず一回、ため息をつく。
勿論そのため息の原因はあのニブ子ちゃん宵風なんだけど・・・。
出会った頃はこんなに意識なんてしなかった。
一緒に居るうちに、次第に好きになっていった。
何処が好きかって聞かれてもよくわからないけれど、やっぱり好きなものは好き。
「出会った頃の方が新鮮でよかったわー・・・・」
ぼんやりと宵風と会った頃の事を思い出した。
辺りは、コンクリートと土と草、雨の特有の匂いでいっぱいだった。
あたしは間抜けにも天気予報を見忘れて傘を持ってきていなかった。
あんなに清々しく晴れていた空を恨みながらあたしは急いで帰っていた。
「うー・・・濡れる・・・・!」
急いで帰ろうとして、近道に裏路地に入った時だった。
そこの裏路地は色々と痴漢や通り魔等、よからぬ事件が起きていると有名な道だった。
でもこの道以外に家に近い道は無い。
少し怖がりながら、急いで走っていた。
「ぎゃっ!!」
何かに躓き、思い切りあたしは地面にダイブした。
膝がいい具合に擦り剥けている。非常に痛い。
「いだだだだ・・・」
半泣きになりながらも、あたしを転ばせた原因の物を2,3回蹴ってやろうと思って立ち上がった。
「・・・・ん?」
よく見れば、それは人の形をしている。それも、少年って感じの。
道を塞ぐように上手に裏路地に倒れている。
雨の所為で色々な臭いが出ていたが、少年は別に血を流しているとかそういう訳ではなさそうだ。
しかし、こんな危ない道に危ない状態で倒れているって事は、かなりヤバめの人だと思う。
「・・・・どうしよう。ほっとくわけにもいかないよねぇ・・・男の子だし。」
膝にはかさぶたができて、痛みも結構ひいてきた。
あたしはしゃがんで少年の顔を覗き込んだ。
「うわぁ美形」
なんてゲンキンなのあたし。
少年の顔一目見て助けてやろうと思ったよ。どうしよう。
とりあえず、あたしに痛い思いをさせたんだから、あたしに何かしてくれたっていいわけだよね?
そう一人で納得して、まずは少年の頬をペチペチと叩いてみた。
「・・・・・・・」
反応はない。
「おーい、大丈夫ですかー?元気ですかー?起きてますかー?」
「・・・・・・・うるさい」
「うわっうるさいって言ったよこの人!開口一番うるさいだってよ!」
少年は目をごしごしとこすって(そんな姿も様になる)起き上がった。
何だかとても眠そうだ。
とりあえずあたしは一番気になっていた事を質問する事にした。
「ねぇ何してたの?ここで」
「お腹空いて気絶してた」
「・・・・はぁ?」
「あぁ・・・よく食べるわね・・・(あたしの財布・・・)」
大きな口を開けて入んのかよってぐらいの量を一気に食べる。
おかげであたしの財布が泣いているのにも気づかず彼は軽く2,3人分平らげていた。
しばらくもぐもぐと食べていると、どうやらお腹がいっぱいになったのか、スプーンを置いた。
「・・・・ごちそうしました」
「あ・・・うん」
目をぱちぱちと瞬きして返事をする。
何か凄い食べっぷりで見てるこっちが胃もたれになりそうだわ。
少年はごしごしと口を拭いた。
「ね、少年。名前は?」
「・・・・宵風」
「へぇ。漢字は?」
「夜の宵に・・・風」
口を拭いている所為でくぐもった声だったが確かに聞く事はできた。
「宵風くんかぁ〜へぇ〜」
「宵風でいい」
「あ、うん」
何か全然喋んない子だなー、とか思いながら伝票を見た。
あまりの金額にヒィ!と思わず声が出た。
その声に気づいて宵風も顔を覗かせる。
「あ・・・・凄い」
「うん、本当に凄いね、あはは、本当に凄いや・・・・」
本日二度目の半泣きで、あたしは必死に現実逃避を試みた。
「・・・ごめん」
「え?あ、大丈夫だよ?気にしないで?うん。」
どうやら彼にも罪悪感というのあったらしい。ちょっと安心した。
「君は・・・何ていうの?名前」
「あたしは 。あたしもって呼んでいいから」
「うん」
二人ともびしょぬれで、このままだと風邪を引きかねないのでとりあえずあたしの家に連れて行った。
「ここがあたしん家。狭くてごめんねー」
宵風にシャワーに入るよう言って、あたしは急いで適当に着替えを持ってった。
(さすがに下着は出せなかったけれど)
宵風が出てきたらあたしも入って、とりあえずほかほかになる事ができた。
「大丈夫、宵風?寒くない?」
「・・・・平気。・・・それと」
「ん?」
「あの・・・有難う・・・」
この時あたしは僅かに胸が高鳴るのを覚えた。
「あぁあの時がとても輝いていたのね・・・今は・・・全く・・・はぁ」
一人ぶつぶつ言っていると、宵風が帰ってきた。
「・・・」
「はろぉ、宵風」
「何でいるの?」
「何となく」
「へぇ」
あぁもう何て無愛想な王子様なの!
ここまでメラメラしてくる恋愛は初めてだわ!
「何か・・・、変じゃない?熱でもあるんじゃ・・・」
「余計なお世話です!」
ふい、とそっぽを向いて精一杯宵風に抵抗する。
あぁ、何て単純バカなあたし。
突然、あたしの上に影ができた。
ん?と思って上を見たら、宵風が額をくっつけてきた。
「な、ななななな・・・!」
「本当に熱あるんじゃ・・・凄く熱い」
「え、ちちちちが・・・」
「?」
あぁもうこの天然少年!顔が熱い原因は全てアンタよ!
そう心の中で抵抗しつつも体はぴくりとも動かないし、宵風もそのまんまだ。
「・・・・リンパ腺って、首だっけ」
宵風は、あろう事か、あたしの首に頬をくっつけてきた。
勿論あたしの熱さもヒートアップする。比例だ。
押し返そうにもちゃっかり宵風くんがあたしの両手首を握ってくれちゃってるので、できない。
何でこんな時だけちゃっかりしてんのよ・・・!
ちなみに、冷やすのは普通脇にあるリンパ腺を冷やします!
「・・・熱は無いみたいだね」
「・・・はは、調べてくれて有難う」
その後、宵風の変態行為に開放されたのは約30分後の事だった。
そんな宵風に胸をときめかせたのは多分あたしの一生の不覚。
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